2012年5月10日木曜日

続 ソーシャルゲーム ガチャと景表法

5日のエントリ「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」の続き。

コンプガチャが景表法の絵合わせに該当し違法であるとの消費者庁の見解により、ソーシャルゲーム運営会社が相次いでコンプガチャの廃止を表明しています。最大手2社は「ただちに違法とは考えていないが」廃止と発表。

・2012年5月10日付 日経電子版「コンプガチャ全廃へ グリー・DeNA・サイバーなど

<違法ではないけれど?>
今までコンプガチャで高収益をあげてきたわけだし、5月末まで継続するのだから「違法です」と認めるわけにはいきませんね。でもそれだけではありません。「ソーシャルゲーム ガチャと景表法」で指摘したように、消費者庁は本年2月の時点でガチャ一般が景表法には抵触しないと表明しているのです。

<景表法>
今回焦点となっている不当景品規制について、一般的な規定の独占禁止法に対し景表法は対象を「取引に付随した景品類」に限定しています。
景表法2条3項
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
このように景表法の景品とは、顧客を誘引するために何らかの取引(言わば「本体」)に付随するもの(言わば「おまけ」)です。ソーシャルゲームについて、もしコンプガチャが景品=おまけなら、本体たる取引はなんだろう? ゲームそのものが本体というならコンプガチャはゲーム販売において「顧客を誘引」するおまけなんだろうか。むしろゲームの構成要素ではないだろうか。
このように、コンプガチャの取引付随性には疑問の余地がないでもないのです。ガチャ一般について消費者庁が本年2月時点で「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と考えたのも同じ理由でしょう。

ところで、違法でないと考える余地があるなら、なぜ争わずに収益性の高いコンプガチャを廃止するのでしょうか。「違法とは考えていない」のであれば、しかも上記の消費者庁見解があったことを考え合わせれば、消費者庁の正式なアクションを待って、それに対して上記のような論点について公の場で議論を重ねるべきでしょう。なぜ戦わずして白旗なのか。しかもみんなで。

ソーシャルゲームのガチャ一般についての法的論点は、景表法、賭博罪(刑法185条)およびそれに関連して風営法があります。
【景表法=みくる】、【賭博罪=有希 & 風営法=ハルヒ】
といった感じでしょうか。本件での戦闘力の例えとして。え、わからない? じゃわかりやすく。
【景表法=真尋】、【賭博罪=クー子 & 風営法=ニャル子】
そう、もし戦えば目の前の景表法=真尋を倒すことはできても、後から出てくるクー子とニャル子によって自らの存在を否定されてしまうことは確実なわけです。だったら戦わずして白旗ですね。

<超局地戦>
「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」ってすごくピンポイントの局地戦です。攻める方も守る方も。攻める方にとってこの戦術を意味づける戦略は、賭博罪&風営法という最終兵器を使わずに勝つということなのでしょう。戦略は目的を達成するためのもの、とクラウゼヴィッツは言います。ではこの戦略の目的はなんでしょうか。それはたぶん
ソーシャルゲーム業界が持続的に成長できるような自己規制を導入すること。
まとめると、ソーシャルゲーム業界の持続可能な成長のために自己規制を導入する(してもらう)という目的があり、それを実現するための戦略として強力(過ぎる)賭博罪&風営法を後方配置した上で、極めてピンポイントな個別戦闘すなわち「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」が戦術として設定された。

誤解を恐れずに言えば、「景表法の絵合わせvsコンプガチャ」は一つのパーツに過ぎず、消費者庁も多くのプレイヤーの一人に過ぎなかったのかもしれません。少なくとも今回は消費者庁の強権とか新興産業つぶしという批判はあたらない気がします。
いずれにせよソーシャルゲーム業界には、これからが本当の正念場ということになりそうです。この見方が正しければ、自主規制対象はコンプガチャだけではありませんし、いつでもクー子&ニャル子(最終兵器)発動があり得るのです。目的が達成されるまでは。

<リークと決算発表>
連休明けの5月8日、9日にソーシャルゲーム運営会社大手の決算が発表されました。
【もし】5月5日のリークがなかったら
この決算発表で公表する業績の将来見通しはどうなったでしょう。自分がゲーム運営会社の当事者だったら困ってしまいます。なぜなら通常通り、今までの業績推移をリニアに伸ばして成長を見込んで発表してしまったら、その後で規制が入ったときに株価は暴落し、投資家は「なぜ規制導入が不可避だったのに高成長を公表したのか」と言うでしょうし、会社及び経営陣は業績予想開示の法的責任を問われる可能性があります。
かと言って何も決定的な事実がないのに、規制を見込んで業績予想を低めにしました、とも説明しづらい。何をどれだけ禁止されるか/自主的に控えるかは決まっていないわけですから、業績予想を見込みようがないわけです。

なので、決算発表前に消費者庁の意向として景表法違反がリークされたことは、ゲーム運営会社にとっても「消費者庁がああ言っているのでコンプガチャ止めます」、「業績予想は出せませぬ」、「細かいことはこれから」と言えるかっこうの理由になったわけです。また連休中だったことで消費者庁もゲーム運営会社も直接の対応に追われることなく、そのショックがマーケットに織り込まれる時間が十分に確保されたました。ということで、連休中のリークは攻守双方にとって最後のチャンスだったという見方もあるかもしれませんね。


お気づきの点がありましたら優しくご教示願います。

<参考文献>
白石忠志『独占禁止法』有斐閣,2009
谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』他 角川書店
逢空万太『這いよれ!ニャル子さん』ソフトバンククリエイティブ

0 件のコメント:

コメントを投稿